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Transformers Unofficial Fanfiction blog

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リベンジ設定。映画後。
アイアンハイド ← バンブルビー。ラブコメお題なのに大変暗い。すみません。








憧憬だと、思っていたのだ。
バンブルビーがアイアンハイドへと寄せる、それは純粋な憧憬であると。
バンブルビーは勇敢だが、体つきは小さく経験は乏しい。携えた火力も弱い。戦士として、決して優れた資質を持っているわけではない。そんな彼にとってはアイアンハイドのこの無骨な体が随分羨ましいらしく、すごい、強い、といつも繰り返し、こどもっぽい無邪気で真っ直ぐな賛辞をアイアンハイドに投げかけてきたから。
最古参の部類に入る歴戦の勇士たるアイアンハイドには、その手の賞賛を向ける兵士が少なくない。実際、不遜なようだが、アイアンハイドは捧げられるそれに慣れていた。些か辟易もしていた。それでも、あまりにストレートなバンブルビーの賛辞の言葉やまなざしは、この古兵の心をいつもくすぐったくした。
だから、澄み切ったセルリアンブルーの瞳を熱っぽく潤ませてしきりに話しかけてくる、それは彼が自分に憧憬を抱いているからだと、アイアンハイドはずっとそう思っていた。
彼は自分が羨ましいのだと。
出来るなら、自分のようになりたいと思っているのだと。
それは、そう、彼が尊敬し敬愛して止まないプライムを、もっと守り助けるために。
バンブルビーは、アイアンハイドから見れば酷く幼い。平和な時代であれば、恐らくアイアンハイドは彼を無条件の庇護下に置こうとしただろう。
その幼さのせいも、或いはあったのかもしれない。彼の潤んだ瞳を幾度向けられても、その視線に何か特別な意味があるなんて、アイアンハイドはそんなこと考えもしなかった。
……本当に、ただの一度も、考えもしなかったのか。
それとも或いは、意図的に考えぬようにしていたのか。
今となっては真実がそのどちらであったのか、もうアイアンハイド自身にも判然としない。いずれにしろ、アイアンハイドはバンブルビーの気持ちに気付かなかった。本当に、随分長いこと。


気付いた切っ掛けは実に些細だ。
復活したメガトロンの脅威を辛くも退けた後、束の間の平和をオートボットたちがディエディエゴ・ガルシア島で満喫していた時のこと。夕暮れに赤々と燃え立つ空の下、それと同じ色に染まった砂浜で、アイアンハイドはたまたまバンブルビーと二人きりだった。
でもだからといって、何か特別なことを話していたわけじゃない。話題に上るのは、一つの例外もなく他愛もないことだった。その上、話すのは殆どバンブルビーばかり。この幼くも勇敢な少年兵は、発声ユニットが不調なままでさえ、極めて朗らかで饒舌だった。彼が放つと、本来味気ない筈の電子のメッセージさえ歌うように響いた。そしてその楽しげなメッセージにアイアンハイドは相槌を打ち、時々茶々を入れる。
穏やかな時間だった。心地の良い空間だった。まるで完成された箱庭みたいに、何一つ不足なものなどないようだった。
踊るような身振り手振りを交えて、バンブルビーはアイアンハイドに話して聞かせた。例えば、サムやミカエラとのウェブチャット。ウィトウィッキー家での日々。そこに暮らす、二匹の困った小型犬の話。そしてNESTの兵士にしてもらった洗車が、とても気持ちよかったこと。
そう言われてみれば、バンブルビーのブライトゴールドのボディが、傷だらけであるなりにピカピカと眩しい。
「なるほどバンブルビー、お前、随分徹底的に磨き上げられたみたいじゃないか。ん? ピカピカ光って眩しいくらいだ。
 綺麗になったのは結構だが、こう眩しくちゃ、隠密行動は出来そうにないな。目立って目立って仕方がないぞ、これは」
斥候兵という本来の彼の役目を揶揄しつつ、アイアンハイドは彼へと手を伸ばした。伸ばした先は、黄色い装甲に包まれた触覚型のセンサーだ。
アイアンハイドの視線の先で、ゆらゆらと、歌うように揺れていた。
歌うように。
さもなくば、夢見るように。


それに触れようとし、そしてまた触れた、その行動に他意はない。何ら特別な意図も。この年少の兵士の頭を撫でたことだって、何も今が初めてな訳じゃない。
絶大な火力の武器を扱うことばかりに長けた、それ以外ではてんで不器用な手。その指の背で、そっと、それはまるで世界で一番壊れやすいものに触れるときの慎重さで、アイアンハイドはバンブルビーの揺れるセンサーに触れた。
特別なことなど何もない、日常の遣り取りの一環。そうなるはずだった。しかしそうしなかったのは、バンブルビーだ。
……否、これも或いは、アイアンハイドの狡猾な責任転嫁なのだろうか。
「………ッ」
アイアンハイドの指先が僅かにセンサーに触れた瞬間、バンブルビーは体を竦ませ引き攣り掠れた声を上げた。そして反射的にアイアンハイドの手を払いのけた。空気を、渇いた金属音が鋭く切り裂いた。


痛みなどない。そんな大袈裟な接触ではない。ただ打たれた手のひらの震え、そして表皮たる金属の戦慄きが、アイアンハイドの目を瞠らせた。
バンブルビーがほんの少しだけ上げた、その声にも。
壊れたままの発声ユニットから絞り出された、痛々しい声。
そのくせ、掠れて甘い。
驚き目を瞠るアイアンハイドに、バンブルビーはその大きな瞳を今にも泣き出しそうに揺らし、口元を戦慄かせた。けれど未だ快復しない彼の発声ユニットが言葉を綴ることはなく、その代わりに彼から発せられたのは、無機質で、なのに酷く痛々しい電子のメッセージだった。
『アイアンハイド、ごめん、おいら、』
消え入るような声でそう言って、恐らく彼は笑おうとしたのだろう。けれど結局その笑みはすぐにくしゃりと歪み、出来損ないの笑顔を悔やむのかそれとも己を恥じるのか、バンブルビーは揺れる瞳を伏せ俯いた。
この時、或いはアイアンハイドの方が冗談めかして上手に誤魔化してやれば良かったのかもしれない。そうすればこの気まずい空気を払拭し、あの日常に戻れたのかも。
けれど彼には何故かそんなことできやしなかったし、そしてまた、してはいけないような気がした。露呈された傷付きやすい真実を嘘で濁し、そして誤魔化すなんて、そんなことは。


アイアンハイドを見つめるとき、いつも狂熱を湛えて潤んでいた、セルリアンブルーの瞳。ああ、なんだと、アイアンハイドは思った。
(なんだ、そうか、……こいつは俺のことが好きなのか)
その事実は、すとんと真っ直ぐに、真っ逆さまに、アイアンハイドの中の一番深いところまで落ちてきた。けれど同時に、そんなことは今更だろうと、心のどこかで囁く自分がいた。
そうだ、今更なのだ。
――――――バンブルビーがアイアンハイドに寄せる想いが、憧憬なんかじゃない、もっと狂熱的で繊細な、初めての恋であるなんて、そんなことは。
多分アイアンハイドは、その熱情をもうずっとずっと知っていた。ただ、知らない振りをしていただけだ。
沈黙が、暫し彼我の空間を支配した。潮騒が遠のく。まるで噎び泣くような音だ。それはあまり居心地の良い静寂ではなく、先に耐えられなくなったのはバンブルビーの方だった。
『おいら、ラチェットのとこ行かなきゃ』
アイアンハイドから視線を逸らし、震える声で、泣き出しそうな顔でそう言って、バンブルビーは逃げるようにアイアンハイドに背を向けた。しかしアイアンハイドは、彼が逃げ出すことを許さなかった。
正確に言えば、逃がすまいと言う確たる意図がアイアンハイドにあったわけではない。殆ど反射的にバンブルビーの腕を掴み彼を引き留め、その時点で初めて、アイアンハイドは自分が彼を逃がしたくないと思っていることに気付いた。
『アイアンハイド、離して』
無理矢理に振り解こうとすればできた筈だ。けれどバンブルビーはそうしなかった。弱々しくそう告げて、ほんの少し藻掻いただけだった。
離してくれと言われたので、アイアンハイドは手の力を緩めた。しかしバンブルビーはもはや逃げなかった。それが諦観によるのかそれともある種の覚悟の故なのかは、アイアンハイドにも分からない。
「バンブルビー」
アイアンハイドの声は静かだった。些か静かすぎるほどだった。
アイアンハイドには、自分がこれから言おうとする言葉がどれほど残酷なものであるか、それがよく分かっていた。アイアンハイドは決して、彼を傷つけたいわけではない。けれど、……でも。
「……バンブルビー」
『なに?』
「俺は、お前のその気持ちに応えてやることはできない」
遙か霞む水平線。太陽がとろりと輪郭を溶かして沈んでいく。夜が始まろうとしていた。
夜が、夜が、喪失する夜が。





 

 

アイアンハイドの静かな拒絶に、バンブルビーは今度こそ笑った。それは今にも泣き出しそうなものだったけれども、それでも確かに笑顔だった。
そんな笑顔で、少し俯きアイアンハイドの視線から逃れて、バンブルビーはぽつりと呟く。
『うん。おいら、知ってたよ、アイアンハイド』
「……そうか」
『うん、知ってた。……ちゃんと、知ってたんだ、おいら』
そして、バンブルビーは今にも消え入りそうな幽かな声で、とぎれとぎれの彼の、彼自身の声で、ごめんなさいと言った。小さな小さなその謝罪は、しかし潮騒に掻き消されることもなくアイアンハイドの聴覚センサーを幽かに震わした。
彼の謝る言葉は、アイアンハイドを苛立たせた。一体何を謝るのか。問い質そうとして、やめた。どうしてなのかはよく分からない。
そんなアイアンハイドに、バンブルビーはふと顔を上げ、もう一度笑った。それはどこか犯しがたく清廉な笑顔だった。神々しいとさえ思えた。そんな笑顔一つ残してアイアンハイドに背を向け、彼は遂にその場を離れた。ただの一度も振り返ることはなかったし、アイアンハイドはそれを追わなかった。自分には追う資格などないことが分かっていた。
去りゆく途中から滑らかな所作でトランスフォームし、彼はビークルモードになった。その途端スピードは増し、ブライトゴールドの車体は、瞬く間に小さくなっていく。
その鮮やかな軌跡。
まるで夜を切り裂くみたいに。
「『うん、おいら、知ってたよ』」
メモリに残ったバンブルビーのメッセージを、アイアンハイドは繰り返し再生した。どうしてかは分からない。もしかしたらこの時、アイアンハイドは些か感傷的な気分に陥っていたのかも知れない。
「『知ってたよ、アイアンハイド』」
もはや見えなくなった彼の背中をそれでも見ようとするかのように、アイアンハイドは目を細める。
「バンブルビー、お前は」
そしてぽつりと呟いた独白は小さく、瞬く間に潮騒に浚われた。
「……俺は」
アイアンハイドは不意に得体の知れぬ苛立ちに襲われ、荒々しい仕草で舌打ちした。けれどそれは、その程度の悪態で治まるような、容易い苛立ちではなかった。


アイアンハイドを見つめるとき、いつも淡く潤んでいたバンブルビーの瞳。晴れた日の海みたいなセルリアンブルー。あの瞳に、アイアンハイドは本当はずっとくちづけたかった。
一度きりでいい、ただ一度きり、そしてアイアンハイドはたった一度のそのくちづけを胸に抱いて、戦い抜き死んでいきたかった。
けれどもはや二度と再び、その機会は訪れない。断ち切ったのはアイアンハイド自身だ。
だから隔絶された彼我の距離に苛立つ資格などないのだと。
そう自分に言い聞かせ、アイアンハイドは静かに隻眼を閉じた。嗚咽にも似た潮騒が、今彼を取り巻く音の全てだった。
 

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